2020年リリース。今やジャズ・ヴォーカル界の女王のような立ち位置にいると言っても良い、ダイアナ・クラールの作品です。
本作は新録ではなく、2018年にこの世を去った名プロデューサー、トミー・リピューマを偲んで、彼女が彼のもとで録音したものの日の目を見ていない作品を集めた未発表作品集です。
収録されている曲はほぼスタンダード曲で、録音時期もまちまちという内容です。
冒頭の “But Beautiful” でのヴォーカル。ダイアナ・クラールの声が近くて驚きます。バックの演奏が控えめで、耳元で囁いている感じが実に素敵です。アンソニー・ウィルソンのギターも心地よいです。この “But Beautiful” と “Autumn In New York” でのストリングスの美しさと、ダイアナ・クラールのハスキーヴォイスとのコントラストは実にいいですね。特に曲として昔から好きな “Autumn In New York” は、眼の前に秋から冬に移り行こうとしているニューヨークの街並みが浮かぶようです。
本作品で異色なカバー曲は、アルバムのタイトルにもなっている “This Dream Of You”。この曲は、ボブ・ディランが2009年にリリースしたアルバム Together Through Life に収録されていた作品です。
少し話し外れますが、このボブ・ディランのアルバムは、全体を覆うアーシーな音作りが大好きな作品でした。オリジナルではロス・ロボスのデヴィッド・イダルゴがアコーディオンで参加していて、メキシコの乾いた土のようなものを表現していました。
このダイアナ・クラールのカバーでは、彼女自身がアコーディオンを担当し、彼女の作品には度々参加しているスチュアート・ダンカンのフィドルで、彼女なりの世界を作り上げています。
…などなど、それぞれの曲の出来は、今まで未発表にしていたのが勿体無いほどのいいものだと思います。
一点欲を言えば、アルバム全体のトーンとして落ち着きすぎた感がありますかね。少しでいいからアップテンポでスウィンギーな作品があればアクセントになって良かったかなあと思います。トミー・リピューマもダイアナ・クラールもそういうタイプの作品を得意としていましたから。
Tracks:
01: But Beautiful
02: That’s All / Azure-te
03: Autumn In New York
04: Almost Like Being In Love
05: More Than You Know
06: Just You, Just Me
07: There’s No You
08: Don’t Smoke In Bed
09: This Dream Of You
10: I Wished On The Moon
11: How Deep Is The Ocean
12: Singing In The Rain
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