2017年に発売されたグレン・キャンベルの作品であり、遺作となります。何と64枚目のスタジオ録音作品です。
本作は2012-2013年にかけてレコーディングされたとのことです。ちょうどその前年にアルツハイマー病であることを公表した彼は、「最後のワールドツアー」を行い、そのあとで最後の録音を行った、それが本作であるということで、それだけでも悲しくなってしまいます…。
さてシンガーとしてだけでなくソングライターとしても有名であった彼ですが、本作はカバー集となります。日本でもハリー・ニルソンで有名な “Everybody’s Talkin’”(邦題「うわさの男」)を始め、ロジャー・ミラー、ジミー・ウェッブ、ボブ・ディランなどの作品を聴かせてくれます。特に “Everybody’s Talkin’” は、オリジナルにほど近い、あのカントリーな雰囲気にグッと来てしまいます。曲全体に流れる印象的なバンジョーは、彼の娘であり、カントリーシンガーでもある アシュレー・キャンベルによるものです。
その他にもウィリー・ネルソンとのデュエット曲である “Funny How Time Slips Away” (ウィリー自身の作品)、そして唯一シングルカットされたタイトル曲 “Adiós” (もちろん、ジミー・ウェッブ作の名曲)は、 “Everybody’s Talkin’” と合わせて名演だと思っています。
録音当時はアルツハイマー発症の1-2年後。既に76歳だったはずですが、年齢を感じさせない若々しいヴォーカルがとても印象に残ります。病魔に襲われながらもよくこれだけの歌を聴かせてくれているなと思います。でも歌入れ時は大変だったそうで、彼が長年愛してきた曲であるにも関わらず歌詞が思い出せないため、息子が横に立って1行ずつ録音して行った、なんていうエピソードもあります。とにかく力を振り絞っての決死のレコーディングだったのでしょう。
本作品がリリースされてから、グレン・キャンベルは発売を見届けたかのようにその2ヶ月後息を引き取りました。この Adiós というアルバムタイトルといい、5年前に遺作として録音しておいたという背景といい、それなのにそんな雰囲気を感じさせない、アルバム全体を包むカラッとした空気感がかえって悲しみを誘います。
Tracks:
01: Everybody’s Talkin’
02: Just Like Always
03: Funny How Time Slips Away
04: Arkansas Farmboy
05: Am I All Alone (Or Is It Only Me) (Intro by Roger Miller)
06: Am I All Alone (Or Is It Only Me)
07: It Won’t Bring Her Back
08: Don’t Think Twice, It’s All Right
09: She Thinks I Still Care
10: Postcard From Paris
11: A Thing Called Love
12: Adiós
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